みちてる、みちてた。

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『空中庭園』/角田光代(2019.10.13)

 ずっと勘違いしていた。

 この作品は、ほのぼのした家族の話なんだろうと。

 

 「空中庭園」というタイトルのほわんとした響きと、表紙の絵の可愛らしさから、そう思いこんでいたのだろう。

 しかし、書き出しからグハッと衝撃を受ける……。

  

 あたしはラブホテルで仕込まれた子どもであるらしい。

 (P9「ラブリー・ホーム」より引用)

 

 

 しかもラブホテルの名前が「野猿(のざる)」ってところまで周知している語り手は、「マナ」というまだ15歳の少女。

 

 彼女の家(京橋家)にあるモットーは、

・何ごともつつみかくさず

・タブーをつくらず

・できるだけすべてのことを分かち合おう

 というもの。

 

 だからマナが訊ねれば、両親もつつみかくさず答えてくれたわけだけれど、年ごろの子からすれば、一家のモットーは鬱陶しくて窮屈で面倒くさくてたまらないだろう、と自分が10代の頃を思い返しながら思った。

 

 ちなみに、ダンチで暮らす京橋家の家族構成はこんな感じ。

 

京橋家

 絵里子…母親
 貴史…父親
 マナ…長女(高2)
 コウ…長男(中3)

 

 この先思春期の「マナ」や「コウ」の反乱が始まるのだろうかと思いきや……

 

 えっ、一番デカイ爆弾抱えてるのはお母さん(絵里子)やないかΣ(゚Д゚)!

 

 とこれまた衝撃を受ける。

 モットーを制定した本人でありながら、絵里子が抱える秘密は闇深い。

 

 家族それぞれの視点で描かれる京橋家。

 表面的にはごく一般的で、どちらかといえば明るくポップな雰囲気を醸し出しているのに、実際はとっくに破綻していて、

 かくしごとをしない、というモットーは、ひょっとしたら、とてつもなくおおきな隠れ蓑になるんじゃないか。あたしたち家族の一日は、いや、あたしたちの存在そのものは、家族に言えない秘密だけで成り立っていて、そのこと自体をかくすために、かくしごと禁止令なんかがあるんじゃないか。その禁止令があるかぎり、あたしたちは家族のだれをも疑ったりはしないのだから。

 (P39「ラブリー・ホーム」より引用)

 という「マナ」の推測がぴったりくる。

 

 読み進めれば読み進めるほど、京橋家が抱えている秘密を知ることになり、だけどそれぞれの「事情」に触れると、かくしごとが悪いとか腹立たしいとか、単純には言えないくなるのだった。

 

 私の家族にだって、この物語とリンクする部分が少なからずあるのだろう。もしも秘密を知ってしまったときは、本作の感想のように「単純には言えないのかも」なんて冷静に呟けるほど寛容な対応はできそうにないけれど…。

 

 家族って、身近にいながら一番謎多き存在でもある。

 

 本作の最後、「コウ」の視点で進む「光の、闇の」というタイトルの話には、前世占いが出来る少女「ミソノ」が出てくる。

前世が見えるから何なのか、と私も「コウ」と同じような感想を最初に抱いていた。

 でも、読み終わったときに「そうか、そうか」と妙に納得し、【私たちって……】と前世の記憶がふと浮かんできそうだった。

 

愛も憎しみも癒しも呪縛も。

ひっくるめて今日も我が家は成り立っているのだね。。。

 

 

(2019.10.13:読了)

 

空中庭園 (文春文庫)

空中庭園 (文春文庫)

  • 作者:角田 光代
  • 発売日: 2005/07/08
  • メディア: 文庫