夜店に置かれた金魚すくいの前。
しゃがみこんで腕まくりをする子どもたちの中に、かつては私もいたはずだ。
いつからだろう。
視線は少年によって水槽の角へと追いつめられる金魚を追う。泳ぐスピードを一気に上げ逃げ惑うさまを見て、心拍が速まっていった。ついにポイで掬い上げられてしまった金魚が目を見開く。小刻みにピチャピチャ跳ね上がり、口をパクパク苦しそうに開閉させている。
一瞬の出来事。
ほんの一瞬の出来事──。
すぐに水の張ったおわんに移された金魚は、狭い器の中でヒラヒラ泳ぎだす。何事もなかったかのようにヒレを動かす。
一瞬の出来事。
そう、ほんの一瞬の出来事だった──。
それでも私には、ポイの上に掬い上げられたあの一瞬の出来事こそがすべてに思えてならなくなった。
いったいいつからなのだろう。
圧倒的に知らないことの方が多い頭で、決定的な現実を知ってしまったような目で世界を見るようになったのは。