みちてる、みちてた。

ここにいるのにここがどこだかわからなくなるから、書き留めています。Twitter→(@yoshi_mi24)

クドカン革命

しのぶちゃん

 我が家では、俳優の塚本高史さんのことを「しのぶちゃん」と呼んでいる。

 

「しのぶちゃんが結婚した」

「このドラマしのぶちゃんが出てるんだね」

「あれ、このナレーションの声ってしのぶちゃんじゃない?」

 

 といった具合だ。

 会話に「しのぶちゃん」と出てくれば塚本高史さんの話として通じるのである。

 

 なぜゆえそんな現象が起きているのか。

 元をたどれば、2003年に放送されていた宮藤官九郎さん脚本のドラマ「マンハッタンラブストーリーへと行き着く。

 

 主演を務めていたのはTOKIO松岡昌宏さんだ。

 松岡さんが演じているのは喫茶店『マンハッタン』の店長で、いつも周りから「店長」と呼ばれているのだが、本当は「マスター」と呼ばれたい! 願望を秘めている無口な男。(心の内では饒舌なのだが……)

 そんな店長のいる喫茶店『マンハッタン』がドラマの舞台となっており、気づくとそこに集う者たちが展開させている恋模様は、回を増すごとに超絶面白くなっていく。ズンズンズンズン引き込まれて、途中で「あぁ〜ぁ!(なるほどの意)」とあなたも声をあげるに違いない。是非とも一度ご覧あれ。

 

 でもって喫茶店『マンハッタン』でアルバイトをしている忍(しのぶ)を演じていたのが、塚本高史さんだった。この忍が強烈に印象に残っているためか、我が家では「しのぶちゃん=塚本高史で話が通るようになったのだ。ただし父を除いて、だが。

 

厳しいジャッジを下したがる父

 高校生のときくらいだろうか。自分の父親が、あらゆるものに厳しいジャッジを下したがる人間だと気づいたのは。きっと気にくわなかったのだろう。あらゆるものが。父の言動をすべて載せようものなら、コンプライアンスに引っかかるから回避したい。

 特例としてドラマや映画に対する発言だけを改めて思い出してみると、、、

 

「二流、三流のドラマばっかり作りやがって」

「脚本がなってないんだよ」

「こんな子供だましみたいな映画…フッ」

 

 こういった批判を、楽しみながら観ている他の家族の前で平気でするのだから「黙れ!」と吹き矢でも飛ばして眠らせたくなる。

 だいたい父にとって一流のドラマとはどんな作品を指すのか、未だもって謎のままだ。

 

 やがて宮藤官九郎さん脚本のドラマが脚光を浴びるようになったころ、父を除いた我が家の面々も次第にクドカン作品にハマっていった。(宮藤官九郎さんの登場によって、はじめて私は「脚本家」なる存在がドラマや映画にはかかせないことを知るのだった)

 

 こういった雰囲気に水をさす役割などわざわざ買ってでなくてもよかろうに、クドカンなんてどうせくだらない」と観てもいないものに批判する父に呆れつつ、「先入観」にとらわれる質は自分にも心当たりがあるため何とも言えないのであった。

 

あまちゃん

 しかし「先入観」は思いがけないところでひっくり返る。頑なに拒絶していたものが、何かをきっかけにスーッと受け入れられるタイミングがあるのだから、人生とは不思議だ。

 

 あの父が、普通に「あまちゃん」を観ていた。いや、普通を超える勢いが「あまちゃん」を観る父の横顔からは感じられた。

 

 あまちゃん」は2013年にNHK朝の連続テレビ小説として放送されていた、宮藤官九郎さん脚本のドラマである。東京で馴染めない高校生活を送っていたヒロイン天野アキが、夏休みに母の故郷である岩手県を訪れ、はじめて出会った祖母に影響を受け海女さんを目指す! というストーリー。(その後、紆余曲折あり)

 

www.nhk-ondemand.jp

 

 朝ドラを観る習慣があるとはいえグダグダ言うのではないかと思いきや、父は観ていた。笑いながら観ていた。BSでは朝ドラが7:30から放送されているのだが、それを観た直後に地上波の8:15からの放送も観ていた。

 当時の私はうつが明け転職活動を計画立てており、「あまちゃん」の軽快なオープニング曲を聴くだけですこぶる元気をもらっていた。そのオープニング曲が8:15よりもひと足早く父がいる居間から聞こえてくると、先を越された! と思った。

 

 そしてこのころの我が家の共通の話題は、「あまちゃん」になった。家族みんながそれぞれの時間帯で放送を楽しんでいたのだ。

 ヒロインのアキの母親の若いころを演じていた有村架純ちゃんが主役級のかわいさであることを、父が何度も同じ言い回しで語っていたのを覚えている。あれはしつこかった。

 

あまちゃんリターン

 時は経ち、2015年。あまちゃん」が再放送されるときがやって来た。

 2015年の世の中がどんな雰囲気だったかは思い出せないが、再び「あまちゃん」旋風が我が家に訪れていた光景はすぐに思い出せる。毎朝の放送に加え、土曜日の夕方には1週間分が立て続けに放送されていた。それでもって土曜日の夕方は、自然と家族そろって「あまちゃん」を観る日となっていたのだ。

 

 すると居間でみんながそろってテレビ画面を注視するなか、やたらと父が「ここで小池徹平はストーブさんに戻るんだよな」とかストーリーを先回りして口走ってくる。

 2年前に一通り観たとはいえよく細かなところまで覚えてるなあと感心していたら、なんのことはない。平日朝の再放送もしっかり観たうえで口走っていたのだ。確信犯かよ。「クドカンなんて──」と言っていた、いつかの親父はどこへ消えたのか。

 

 私は目撃したのだ。

 クドカン革命が起きた瞬間を、きっと。

 

 そして有村架純ちゃんが主役級のかわいさであることを、2015年も2013年とまったく同じ言い回しで父は語っていた。しつこい。

 

*父が生前最後に観ていた朝ドラは、有村架純さん主演の「ひよっこ」でした。⬇

yoshi-mi.hatenablog.com

 

 

2021年に突入

 一昨年の2019年には、大河ドラマいだてん〜東京オリムピック噺〜を父のいない居間で観ていた。もちろん脚本は宮藤官九郎さんだ。

 日本がはじめてオリンピックに参加した年から1964年の東京オリンピックが開催されるまでの色濃い過程が、第一部・前半(金栗四三篇)・第二部・後半(田畑政治篇)の二部編成で描かれている。

 


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「お父さんが生きてたら喜んだだろうね」

 

 母が何度か「いだてん」を観ている最中にそう言っていたのは、2020年のオリンピックまで自分は生きていられると思っていた節が父にはあったからだろう。残念ながら2017年に逝去した。生きていたら絶対に父も「いだてん」を観ていたはずだ。確信があったから母の言葉に私は、「うん」と返事をしていた。

 

 ところが……母と私のやりとりは実は噛み合っていなかったようなのだ。

 それがわかったのは最終回を迎えたときだった。

 

「生きてたら喜んだだろうね、勘三郎さん

「うん……う、ん?」 

 

 勘三郎さん……?

 ああ、お父さんっていうのは、中村勘九郎さんのお父さんのことだったのね(;´∀`)(前半の主人公、金栗四三を演じていたのは中村勘九郎さんなのである)

 

 父も予想だにしていなかっただろうが、結局2020年に東京でのオリンピックは開催されぬまま時は2021年に突入した。そして今、新たなクドカン作品『俺の家の話』がTBSで始まっている。

 

 TOKIO長瀬智也さん演じる主人公は、父親との確執があってね。私もお父さんに思うところは山ほどあったのですよ。おそらく、お父さんも私や世の中や人生そのものに対して思うところが山ほどあっただろうね。お父さんならこの時代にどんなジャッジを下すのかな? やはりあらゆる方面に厳しめでありながら、ひっそりパチンコを打ちに行くのでしょうか。タバコをプカプカふかせながら、日曜日は競馬中継を観るのでしょうね。

 

 よければ今夜、居間に降りてきませんか?

 今夜放送の『俺の家の話』を母とふたりで観ていますから。

 有村架純ちゃんは出てないけれど。

 まあ、よかったら一緒に観ましょう。