いつの間に様変わりしていたのか──。
買い物にでかけた先のスーパー。よく利用するスーパー。
店員がいるレジには列ができていたため、セルフレジの方へと回ったら……おや、なんだか以前の機械とは様子が異なる。
機械の前に買い物カゴを置いたあとで、急に心細くなった。ていうか、買い物カゴを置く位置がそもそも変わってるやないか。んでもって、その時点で戸惑いながらも置いてしもうたやないか。
心細さは大きな違和感へと傾いていった。居心地の悪さを覚えつつも、咄嗟には引き返せなかった。「セルフレジに戸惑っている人」の空気を醸し出したくなかったからだ。
いつもの通りカバンからエコバッグを取り出しますよ〜、私は。
と、いまにも口笛を吹かんばかりの表情で視線をふと上にあげたときだった。衝撃的な文字が目に飛び込んできたのだ。
頭上にぶら下がったセルフレジゾーンを示す看板に『現金使用不可』とある。
二度見するまでもない。
刹那に覚った私は、先ほどとは打って変わって回れ右をした。
──現金使用不可。そうか、この店のセルフレジはついに現金使用不可になってしまったのか……。
キャッシュレス時代の波が届いた、と感じた。
店前に消毒液のある風景が当たり前になってしまったこと以上に、『現金使用不可』の文字が私の心に荒波を立てていったのだ。
動揺を隠せないまま、帰り道を歩いた。雨上がりの肌寒い空気が涙を誘った。どうしてこんなにも落ち込む必要があろうか。しかし事実、この心は落ち込んでいるのだ。胸が張り裂けてしまいそうだった。
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セルフレジの前から撤退したあとで私は、すぐさま店員がいるレジに並び直したのだがこちらはこちらで変化を遂げていた。
商品のバーコードを店員が読み取ってくれるまでは以前と変わらないが、会計だけはセルフレジで済ませるという仕様になっていたのである。会計オンリーのセルフレジでは現金での支払いも可能だ。とはいえ、こういった支払い形態に客側がまだ慣れていないため、あたふたする人が続出していた。
一列に割り当てられる会計セルフレジは2台までらしい。ゆえに、どんなに店員が素早く商品のバーコードを読み取ってくれたとしても、2台ともセルフレジの操作に戸惑ったりして客が支払いを済ませられていない状態だと回転はストップしてしまう。
効率が悪いように見えるが、すでにこうした形態を取り入れている店ではスムーズに列が流れていっているのだから、これは時間の問題なのだろう。そうやって人々は新しい波を受け入れていく。
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それにしてもいつの間に……頻繁に利用している店だというのに、どの日を境に機械が導入されたのか。
悲しい。今日まで気づけなかった自分が悲しい。家から数メートル先でドラマのロケが行われていたことにすら気づけなかったときと同じくらい悲しい、とうか間抜けだ。
気づかぬうちに導入された新たな形態。
『現金使用不可』の文字。
あたふたする客。
会計セルフレジが空くまで時間調節のために、スロー動作でバーコードを読み取る店員の手つき。
半年後には、当たり前の風景になっているのだろう。これを機に〇〇payってやつにトライしてみるか! と意気込むご年配もいるかもしれない。
だけどどうしてこんなにも私は落ち込んでいるのだろう。いつから「変化」を好意的な目線だけでは捉えられない自分になったのだろう。「新しい」ことにワクワクするよりハラハラするようになったのだろう。
ガラケーユーザーの母にスマホをすすめようか悩む。私自身もスマホを使いこなせるように、母とともにじっくり学ぶのにいい機会かもしれない。