荷物を入れ終えてチラッ。玄関の外へ出る前に立ち止まってチラッ。玄関の鍵をしまったついでにチラッ。自転車に跨がる前にチラッ。んでもって、乗ってる途中もブレーキを踏んでチラッ。
何をそんなにチラッているのかって?
リュックのファスナーが全部きっちり閉まっているか、何度も点検しないと不安な性分なのである。いや、不安なら「チラ見」じゃなくて一度「ガッツリ見」すればいいのに。
しかし「ガッツリ見」をしたところで移動中、ソワソワしてくるんですよ。だから自転車を漕いでいる最中にも、片手を背後に回してファスナーが一番下まで下がっているか感触で確かめるわけです。
リュックとは相性が悪いらしい。
いつもは斜めがけのショルダーバッグを使っているのに、何をきっかけにだっか先週、ショルダーバッグの中身をリュックに移し替えてしまった。ショルダーバッグならばファスナーの点検が、それこそ立ち止まらなくとも視線をちょっと下げればチラ見できるのだがリュックだとそうもいかない。
本日は役所への用を済ませるために、外出した。再び中身を移し替えるのが手間で、もうリュックでいいやと背負ったが、玄関の鍵を閉めた辺りで「いいや」を撤回したくなったものの強行突破した。
──大事なものを落としてしまったらどうしよう。
財布やスマホだけではない、今日はマイナンバーの通知カードまで持ち運んでいるんだぞ!というプレッシャーがペタルをひと漕ぎするたびに襲ってくるのだからたまらない。(なぜ引き返そうとはしないのだろう……)
忘れ物がないこともファスナーが閉まっていることもあれだけ確認したのだから、持ち物に意志が宿っていないかぎり脱走する心配はないと思われる。
それでも、私は確認してしまう。今日は特に不安が強かったのは、「マイナンバーの通知カードまで──!」のせいだろう。(意地でも引き返そうとしないのはなぜだろう……)
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持ち物の点検を今以上に確認せずにはいられなかったのは、高校時代だった。
忘れ物をしても、借りられる友達がいなかったのだ。友達がいたとしても、「貸してほしい」が言い出せない。逆に誰かに貸したあとは、「返してほしい」が言い出せない。ゆえに、二度と戻ってこなかったシャーペンが何本かある。「返してほしい」が言えなかったと同時に、一秒でも早く教室から退散したくて相手がまだ書き物をしていようが使い終わるのをじっと待っていられなかった。
上記のような高校時代ではなかったとしても、「外へ出たら周りはみんなスリだと思え」的な概念が抜けないのは、親からの教訓か夕方のニュースでスリをとらえた決定的瞬間映像を見すぎたせいなのだろう。
それかある日、父親がポケットに入れていた消費者金融のカードを道端に落として帰ってきたくせに平然としていた事件がトラウマなのかもしれない。
男性陣はよくお尻のポケットに無防備で財布を突っ込んでいるが、ハラハラしないのだろうか。そんな状態でどうして人混みを歩けるのだろうか。
「チェーンをしてる人ってダサイ」なる声を所々で耳にするが、あのチェーンってウォレットチェーンってやつですよね。いいではないか。素晴らしいではないか。ウォレットにチェーンしてるって最強ではないか!きっと金銭管理が行き届いた人に違いないから。むしろチェーン推奨!!
ちょっ、ちょっとウォレットチェーンに興奮しすぎた。「チェーン」で検索してみたら高橋一生の画像が出てきて、さらに興奮してしまった。冷静になるためにこれから、リュックの中身をショルダーバッグに入れ替えます。